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うすいビールを飲み干して鳥たちはまた飛んだ
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「お目が高い」



 広げられた荷物の中から細身の瓶を拾い上げて、まじまじ見ていたスパルヴィエロです。
 声を掛けられたのが自分だと気がつくまでに、ほんの少々時間がありました。






抜け殻のパッセンジャー・リスト





「…なんてね。気に入ったなら貰ってくれないか。僕も少々困っていたんだ、それは幅を取るから」


 スパルヴィエロの手元には、ワインボトルに似た形の、「例の」瓶がありました。

 北から吹き込む風も森に阻まれ幾分穏やかになった、心地良い街です。
 風が運ぶ遠い春の匂いを嗅ぎながら、雪化粧をしていない小さな公園に、スパルヴィエロはやって来ました。
 先に木陰で休んでいたその人は、この国のものでない香りを纏っていたから、冒険者だろうとすぐに分かりました。

 決して大きくない荷物は、きっと彼の前に広げられた分を連れて行く気が無いからでしょう。
 近所の街の人々が物珍しげに品々を手に取り眺めていると彼は決まって、時にはあくび交じりに、「よければ持って行ってくれ」と言います。

「ええ、売り物じゃあないのかい?」
「ああ、まあお金は他の事で貰っているから。これは回ってきた場所のお土産」
「ねえねえ、これはー?これってリボン?」
「そう、それはここより東の国の編み物なんだって。結んであげようか」
「ほんと?ありがとう!じゃあここ!ここにおねがい!」

 街の人々と話している間に、瓶を通して冒険者を見てみます。
 いわゆる耳長族というやつで、スパルヴィエロも見た事はありましたが、彼の耳は先の方が分かれて、少しおかしな形をしていました。

「あんた、旅エルフか!珍しい事もあるもんだな。俺自身何年も旅に出てた事もあったが、会ったのはこれが初めてだよ」

 同じ耳長族でしょう、こちらはぴんと横に伸びた綺麗な耳をした人が、冒険者と握手をしていました。

 スパルヴィエロは、「旅エルフ」の冒険者とお話ができるまで、瓶を抱えてゆらゆらと木のベンチを転がりました。





「それの使い方かい」

 最後のお客と品を見送って、冒険者はすこし笑ってスパルヴィエロを振り返りました。

「それは、適当に栓さえしておけば瓶の中の時間が進まなくなる。
 つまり瓶の口を通る物なら、入れた時の状態のまま半永久的に保存できる… らしい、ってところかな」

 スパルヴィエロは、期待していなかった希望があっさりと語られて、喜ぶより先にぱちくりと目を瞬きました。
 雑貨を扱う色々なお店を見たり、馬車で乗り合わせた人々と物々交換をしても見つからなかった、なんとも丁度良い品です。

 だからスパルヴィエロはすこうし、訝りました。

「らしい?」
「らしい。僕は使って確かめていないからね」

 名前は聞き取れませんでしたが、魔法使いばかりが住んでいて魔法の技術に優れた国のものだそうです。
 スパルヴィエロは結局、ありがたくいただきました。
 交換で、ここよりあたたかい風の吹く国の田舎町で貰った葡萄酒を瓶ごとあげたら、
 冒険者は興味深そうにラベルや装飾を眺め回していました。

「ありがとう、旅の連れが出来た」






 なんてことのない出会いには違いありませんでした。
 乗り合い馬車で向かいのお客と話すより、ずっと短いおしゃべりで、彼は次の日にはもう街を発っていました。
 街に住んでいる、彼と握手をしていた耳長族の青年のいわく、
 旅エルフと呼ばれる種は数がとても少なくて、しかもいつもああして一人旅をしているから、滅多に出会う事は無いのだそうでした。
 彼らがくれる「お土産」は、隣かその隣の国のものでないかぎり、二度と巡り会うことはない代物だそうです。

 青年に例の瓶を見せて、聞いた国の名前をうろ覚えで話してみましたが、
 スパルヴィエロの発音が悪かったのか、そもそも聞き違っていたのか、あくびが出るほど遠い国なのかはわかりません。
 雪みたいに白くて丸っこい花を抱えて、瓶はいま、ちょうど通り道である緑の遺跡を揺られています。



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