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うすいビールを飲み干して鳥たちはまた飛んだ
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「なに、結局どうしたって生きているのだから、死ぬのさ、小さな子供だって知っている」






愛国のデザート・ヒーラー



「ただ死なんて名前をつけたのが良くないのさ、いなくなったそのひとやものを思うより、
 それが埋めていたはずの空いてしまった空間をみている、いなくなったという事実や自分が置いて行かれた事を悲しんでいる。
 いつまでもそのひとやものそれ自体をみることはない、空いた穴を見て満たされない気分になる。
 外枠ばかりが出来上がって、しまいにはその空いた空間を埋めるべつのものがあらわれる」

 スパルヴィエロは、自分の膝に頬杖をついて、呆れ果てたような顔。
 山の主が作ってくれた、色も華やかな野菜を小麦粉と卵の衣で包んで油で揚げたものを齧りながら小さくひとつ息をつきました。
 スパルヴィエロは、いつだっていつまでも、美味しい料理の名前を覚えません。

「おまえにとっちゃ酒の肴かもしれねえがよ」

 スパルヴィエロが腰掛ける切り株の背中、茂み一つ挟んだ向こうに旅の連れは居ました。

 森に足を踏み入れてすぐ、木々の深い緑を髪にうつしたような少女に出会いました。
 奥に進む探索者を阻む為に居るのだと、可憐な声で平然と言いました。
 とはいえ彼女自身からはあまり使命感だとか、追い詰められた緊迫感だとかそういったものは感じられず、
 カゲモトやチヒロと手合わせ程度に――少なくともスパルヴィエロにはそう見えました――拳を交えると間もなく、
 樹の根とも鞭ともつかぬ波打つ髪を引きました。

 日が昇ればどうせ森で育まれた巨大な動物達が飛び出してくるでしょう。
 例の如く、見た目も中身もてんでばらばらな旅の仲間は、夜の探索を避け一休みを決めました。


 その夜のことです。
 見張りも他に立てられているのに、スパルヴィエロは起きたまま。

「おれァ今まさにその、どでかく空いた穴を埋めにいっちょうんじゃ、苦労をしってねぎらいやがれ」
「外枠が出来ようとしているんだよ、だから。君の苦労は無駄じゃあないが、急いだ方がいいかもしれない」
「停戦協定だろ。ニア・テレサにきいた」
「ああ、彼女か。俺より前だったか、しまったな、これから会うなら渡してほしい物があったのに」
「おれを共同ポストにすんじゃねえよ」

 口を尖らせ抗議の声も、笑って流されておしまいでした。
 スパルヴィエロの正面には、白っぽい金色の髪を雑に切って、それがまた伸びたようなずぼらな頭が焚火の光を受けていました。
 先だけ刻んだように分かれた長い耳。旅エルフでした。

「…ふう。まあ、きいといちゃるわ」
「ヴェン・ロンド」
「つうかおまえ、会わんかったか、さいしょに」
「ああ聞いたよ。違う、彼はエド・エッダ。よく言われるんだ、似てるって。俺は会った事が無いんだけれど」
「あーそうかい。そういやおめーはいままであった連中んなかじゃ、いちばんしゃべくりよるわ」
「それもよく言われる」

 スパルヴィエロはあらかじめ、客人だと断って寝床を離れましたが、ここは少女の姿をしたあの門番が守っていた筈の森の奥。
 連れの訝るか、あるいは不思議そうな視線は背中に感じました。
 けれど、正直なところスパルヴィエロも、彼ら―――「旅エルフ」がいったいなんなのか、
 またスパルヴィエロになんの用事があって、度々こうして姿をあらわすのかなんて、わからないのでした。
 初めて出会った時に聞いた話では、「彼ら」は生涯で一度出会う事があるかないかという稀少な種族という筈でした。
 実際にスパルヴィエロも、同じ人物に二度出会った事は今のところありません。
 けれど、「彼ら」はまるでリレーでもしているみたいに先の話題を引き継いで、いつだっていつまでも不思議な語り口で、
 スパルヴィエロの前にあらわれるのでした。

「宗教というものがあるだろう。あれはきっと、本当はそこらじゅうに空いている穴に気がついてしまった人が作ったんじゃないかって俺は思うんだ、
 落ちるのが怖くて身動きが取れなくなる前に、埋めるのさ、穴の一つ一つに言葉をあてがって名前をつけて。
 本当はそこが穴じゃなくたって、最初からそこにあるものが見えないんだから、それはがらんどうの穴と一緒なのさ。
 だからいずれ、何らかの手段か偶然で、本当はその穴には自分がつけた名前と違うものがいると分かってしまったとき、
 安息の礎だった教えは疑いに変わる」

 一際おしゃべりなヴェン・ロンドは、それでいて「彼ら」らしく話があっちこっちへとんでしまうから、
 スパルヴィエロはもうすっかりあきらめて、今宵を捧げる心地でした。

「まるで足りないみたいな錯覚にとりつかれているのさ、もともと要らなかったものだけれど、穴を埋めるものとしてそれがあまりに魅力的だったから」
「マナの話か、そりゃ」
「そう、それ。しかも思うに、この場所の外に、俺達や君がいうところの外に持ち帰ってもきっと、何の意味も無い」
「ここにいるかぎりは手にあまるもんつことか。よおわからんし興味もねえが、ま、たしかにそうなんだろうさ」
「少し考えただろう。身体に直接取り入れるのでなく、なにかの燃料に使えないかって。
 例えば、あの小さい女の子がそちらの男の人に、それとももう少し大きい方の女の子に、海や山や色々なものを飛び越えて会いに行く為の」
「そが風に具体的にいわれると余計いけんなとおもうわ」

 鼻で笑うスパルヴィエロ。
 この場所で手に入りうるあらゆる夢や希望は、目先の目的をなんにも果たしてくれません。
 スパルヴィエロはウイスキーの瓶、ヴェン・ロンドは葡萄酒の瓶を傾けました。

「ゆめまぼろしもまた、都合いい穴埋めか。それなら穴という穴ば埋めよるもん、全部がゆめまぼろしでもわからんのお」
「何なら誰かに頼んであげようか。確かそんな効果の、でもチョークだから、補助に魔法陣を描くなら別に知識が要るけれど。
 次は誰だろう。アン・ガルフには会ったかい?」
「いや、よか、持って来んで。おまえらに頼み事するとろくなことがねえ」
「なんだって。ひどいな」




一晩中おしゃべりだったヴェン・ロンドは、別れ際、なんでもなさそうに言いました。

「不思議だと思うのさ、空いた場所に愛情や里心を注ぐのも悪い事じゃあないけれど、
 穴の空いていない地面なんてたくさんあるし、上を見れば青や紫や、
様々な色でいっぱいの空だってあるのだから
 自分の居た場所こそが穴になってしまう前に、そちらをもっと見て楽しんでやればいいだろうに」

スパルヴィエロは、あくびをしながら答えました。

「こころの方に穴が空いてるんじゃねえのか、
地面や空を見て満たされるっつうこと自体が、ぽっかり穴になっちまってんのさ」



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