うすいビールを飲み干して鳥たちはまた飛んだ
白い白い世界にはふたつの種類があるのです。
おそろしい目で睨みつけられ、全身を鋭いナイフで刺されるような寒さの、
白い墓場を見たことがあります。
皆が閉じ籠る家々から、黄色や橙色の灯りが浮かぶ、
白い街を見たことがあります。
どちらの世界でも聴こえるのは歌でした。
ぎゅ、ぎゅ、と締め付けるような雪を踏む音と歌でした。
それはいつもスパルヴィエロの声というわけではありません。
けれど歌は同じ歌でした。
鈴を鳴らすように華やかで、軽やかで、踊りだすような旋律は、
寒さに強張るひとの顔をかならず和らげました。
「懐かしいなぁ」
鼻を赤くして笑ったその人も、歌を聴く前は、
それはそれはかなしそうな顔をしていました。
「なあ、俺はもしかしたらもう死んじまっているのかもしれないな」
けれど声ははっきりと聞こえていると、確かそう、スパルヴィエロは応えました。
彼は雪の林の中、ひとりぼっち。
立ち尽くしているのではありません。
スナイパー・ライフルを構えて、つめたい雪の絨毯の上。
「なあ、お前、これから南へ行くんなら、
年中色んな色の花が咲いている村があるそうだから、
是が非でもそいつを見て来てくれよ。いや、俺も見た事は無いんだが。
そうしたらさ、連れていくんでも絵でも何でも構やしねえからさ。
俺のガキにそいつを一目、見せてやってはくれないか」
笑う横顔に汗が一筋。二筋。
こんなに寒いのに、暑くて仕方がないのでしょうか。
こんなに寒いのに、暖かいのは南の話をしているからでしょうか。
スパルヴィエロはじっと、彼と同じ方向を見つめながら、
分かった、と返事をしました。
けれど歌は同じ歌でした。
鈴を鳴らすように華やかで、軽やかで、踊りだすような旋律は、
寒さに強張るひとの顔をかならず和らげました。
「懐かしいなぁ」
鼻を赤くして笑ったその人も、歌を聴く前は、
それはそれはかなしそうな顔をしていました。
「なあ、俺はもしかしたらもう死んじまっているのかもしれないな」
けれど声ははっきりと聞こえていると、確かそう、スパルヴィエロは応えました。
彼は雪の林の中、ひとりぼっち。
立ち尽くしているのではありません。
スナイパー・ライフルを構えて、つめたい雪の絨毯の上。
「なあ、お前、これから南へ行くんなら、
年中色んな色の花が咲いている村があるそうだから、
是が非でもそいつを見て来てくれよ。いや、俺も見た事は無いんだが。
そうしたらさ、連れていくんでも絵でも何でも構やしねえからさ。
俺のガキにそいつを一目、見せてやってはくれないか」
笑う横顔に汗が一筋。二筋。
こんなに寒いのに、暑くて仕方がないのでしょうか。
こんなに寒いのに、暖かいのは南の話をしているからでしょうか。
スパルヴィエロはじっと、彼と同じ方向を見つめながら、
分かった、と返事をしました。
白い白い墓場に、今残るのは骨と木の十字架。
たくさんのいのちとたくさんのおはなしのあった印に、ひとはそれを建てるのです。
それなら最後に残ったひとの印は、いったい誰が残すのでしょう。
白い白い街も遠くいずれは、墓場になるでしょう。
もしもひとびとがそこから移り住んだなら、もぬけの殻で残った家々は立ち並ぶ印に似ています。
それなら最後には世界のすべてが、印だけで埋まってしまうのでしょう。
「居たことの印があればいい」なんて、かなしい自己暗示。
だって印を見るひとが居なければ、印に意味なんてないのです。
スパルヴィエロはまだたっぷりあるお酒の瓶をひっくり返して、
地面がごくごく飲み下していくのをじっと見つめています。
世界中に建つあの印が、この雪の日に何かしらのおはなしを持っています。
ひとが区切った国があっても結局地面は繋がっていて、
海を挟んでも海の底は繋がる地面で、
どうしてかどこでも雪は降って、
どうしてもどこでも夜は来て、
だからスパルヴィエロはこうして乾杯をするのです。
ひとつひとつの約束を思い出して、こうして乾杯を交わすのです。
約束のキール・ロワイヤル
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