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うすいビールを飲み干して鳥たちはまた飛んだ
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白い白い世界にはふたつの種類があるのです。




 

おそろしい目で睨みつけられ、全身を鋭いナイフで刺されるような寒さの、
白い墓場を見たことがあります。
皆が閉じ籠る家々から、黄色や橙色の灯りが浮かぶ、
白い街を見たことがあります。




どちらの世界でも聴こえるのは歌でした。
ぎゅ、ぎゅ、と締め付けるような雪を踏む音と歌でした。

 


それはいつもスパルヴィエロの声というわけではありません。
けれど歌は同じ歌でした。
鈴を鳴らすように華やかで、軽やかで、踊りだすような旋律は、
寒さに強張るひとの顔をかならず和らげました。

「懐かしいなぁ」

鼻を赤くして笑ったその人も、歌を聴く前は、
それはそれはかなしそうな顔をしていました。

「なあ、俺はもしかしたらもう死んじまっているのかもしれないな」

けれど声ははっきりと聞こえていると、確かそう、スパルヴィエロは応えました。
彼は雪の林の中、ひとりぼっち。
立ち尽くしているのではありません。
スナイパー・ライフルを構えて、つめたい雪の絨毯の上。

「なあ、お前、これから南へ行くんなら、
年中色んな色の花が咲いている村があるそうだから、
是が非でもそいつを見て来てくれよ。いや、俺も見た事は無いんだが。
そうしたらさ、連れていくんでも絵でも何でも構やしねえからさ。
俺のガキにそいつを一目、見せてやってはくれないか」

笑う横顔に汗が一筋。二筋。

こんなに寒いのに、暑くて仕方がないのでしょうか。
こんなに寒いのに、暖かいのは南の話をしているからでしょうか。

スパルヴィエロはじっと、彼と同じ方向を見つめながら、
分かった、と返事をしました。





白い白い墓場に、今残るのは骨と木の十字架。
たくさんのいのちとたくさんのおはなしのあった印に、ひとはそれを建てるのです。

それなら最後に残ったひとの印は、いったい誰が残すのでしょう。

白い白い街も遠くいずれは、墓場になるでしょう。
もしもひとびとがそこから移り住んだなら、もぬけの殻で残った家々は立ち並ぶ印に似ています。

それなら最後には世界のすべてが、印だけで埋まってしまうのでしょう。



「居たことの印があればいい」なんて、かなしい自己暗示。
だって印を見るひとが居なければ、印に意味なんてないのです。



スパルヴィエロはまだたっぷりあるお酒の瓶をひっくり返して、
地面がごくごく飲み下していくのをじっと見つめています。
世界中に建つあの印が、この雪の日に何かしらのおはなしを持っています。

ひとが区切った国があっても結局地面は繋がっていて、
海を挟んでも海の底は繋がる地面で、
どうしてかどこでも雪は降って、
どうしてもどこでも夜は来て、


だからスパルヴィエロはこうして乾杯をするのです。

ひとつひとつの約束を思い出して、こうして乾杯を交わすのです。



約束のキール・ロワイヤル


 
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