うすいビールを飲み干して鳥たちはまた飛んだ
スパルヴィエロは、何も特別ではありません。
これを読むあなたときっと同じです。
ただ、あなたの居るお部屋の、緯度と経度によっては鉄砲なんて持っていようものなら、
怒られてしまうか、捕まってしまうでしょう。
スパルヴィエロがいま、お腹を掻きながら昼寝をしている原っぱは、
たまたまそういう緯度と経度ではなかったのです。
「スパちゃん、これなあに?」
小さなポフポコの小さな手には、大きすぎる鉄の塊。
持ち主もこの旅路では2番目に小さなスパルヴィエロだから、大きな事には変わりありません。
それにしてもスパルヴィエロは、いつも何処からともなく持ち物を取り出します。いったい何処に隠しているのでしょう。
「そいは、てっぽー」
「てっぽー?」
「そ、てっぽー」
「なんだか、鳩ぽっぽーみたいね!」
「ま、そがんようなもんっちゃ」
だらしなくって“なまり”の強いスパルヴィエロの言葉だから、
ポフポコもなんだか意味を取り違えてしまっているようです。
鍛冶の腕に覚えのあるドワーフの里になら、ちらほら見かける事もあるかもしれない、それ。
けれど、すこうし形が変です。
筒から弾丸が飛び出す仕組みは同じなのでしょうけれど、なんだか、なんというべきか、
複雑なつくりの金管楽器のような、そんな見た目でした。
「“こねこね”おわったんか?ごくろーさん」
「うん!…えっと、えっと。これもこねこね、するんだった?」
寝っ転がっていたスパルヴィエロの、放り出した荷物の中。
ポフポコのその血族たる技術に頼って、お願いした合成の出来は流石のもの。
先日渡した二つをただ溶かして合わせるなんかよりも、ずうっと上等なボウガンに見えました。
覗き込むポフポコからボウガンを受け取って、
指さされたのは鉄の塊。
「あー」
ボウガンを素肌のお腹の上に抱えて、スパルヴィエロは、へんな声をひとつ。
寝転がったまま空をぼうっと見つめて、寝惚けてでもいるのでしょうか。
ポフポコがちょこっと首を傾げてから、4拍くらいでスパルヴィエロも身を起こしました。
「ほうじゃのお。そのうち、たのむわ」
材料も揃ってきました。そろそろ自分でも、同じような鉄の塊を作る事が出来る頃です。
もう一丁、もう少しそれらしい物が出来上がったら。
そうしたらもっと上等なものに変えてもらおう。
「いいの?」
スパルヴィエロったら、変な顔。
口を目一杯ひん曲げて、眉の間にはすじを入れて、
でも怒っている風ではなくて、けれど幸せそうでもなくて、
「おう、
よか」
どこか寝違えでもしたのでしょうか。
ブラッシング・ウルフの午睡
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